日本は「子育て無理ゲー社会」!?わが子の未来を明るくするために親の私たちがいま、考えたいこと

日本は「子育て無理ゲー社会」!?わが子の未来を明るくするために親の私たちがいま、考えたいこと
先進国の中でも子どもの貧困率が高いなど「子育て無理ゲー社会」ともいわれる日本。先日の総裁選や衆議院選挙に向けての争点として話題となっている子育て政策について、日本大学教授・末冨芳先生や認定NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹さんらが議論したYoutubeLIVEをレポートします。
目次

自民党総裁選や衆議院選挙などの選挙でもたびたび話題になる「子育て政策」。
「子ども庁」の創設に向けて意欲的な動きがあるという報道もある中で、子育てに厳しいといわれている日本の現状や、本来あるべき子ども政策とはどんなものなのでしょうか?

去る2021年10月14日、政府の有識者会議の委員も務め、子育ての当事者でもある3人の有識者によって、「衆院選間近!”子育て無理ゲー社会”をこども庁は如何に変えるのか」と題しYoutubeLIVEが開かれ、これからの子育て制作に関しての熱い議論がくり広げられました。

子どもたちの未来のために、親である私たちができることは、すべきことはなんなのか。深く考えさせられたこのLIVEの様子をダイジェストでお伝えします。

LIVE登壇者紹介

末冨 芳(すえとみ かおり)先生
日本大学文理学部教授、内閣府子供の貧困対策に関する有識者会議構成員、文部科学省中央教育審議会委員他を務める。
教育政策の中の教育費問題を専門にし、子どもの貧困対策は「すべての子ども・若者のウェルビーイング(幸せ)」がゴールという理論的立場のもと、子ども の貧困対策に関わる研究をすすめている。

駒崎 弘樹(こまざき ひろき)さん
認定NPO法人フローレンス代表理事、内閣府子ども・子育て会議委員、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長他を務める。
「みんなで子どもたちを抱きしめ、子育てとともに何でも挑戦でき、いろんな家族の笑顔があふれる社会 をつくりたい」という想いから、病児保育や障害児保育園など、さまざまなサービスを展開。自らも育 休 を取得し、積極的に子育てに関わる一男一女の父でもある。

前田 晃平(まえだ こうへい)さん
認定NPO法人フローレンス代表室長、保育・教育現場での子どもへの性暴力を防止する新たな仕組み「日本版DBS」の政策提言、こども庁創設に関する有識者会議臨時委員他を務める。
妻と娘との3人暮らしで、自身も子育てに奮闘している。

いまの日本は「子育て無理ゲー社会」?

冒頭、末冨先生が提示されたのが、日本の現在地でもある「子育て無理ゲー社会」について。SNSなどで話題になっているキーワードですが、痛感している親御さんも多いのではないでしょうか。

子育て無理ゲー社会は専門用語でいうと『チャイルド・ペナルティ』。
日本語では「子育て罰」と訳されていて、子育て層、特に子ども をもつお母さんに冷たい社会の現状に疑問を呈している言葉になるのだと末冨先生は説明します。

お話の中では、「先進国の中では異様」なのだという日本のこんな現状が挙がりました。

  • 先進国の中で一番ひとり親が働いている国であるにも関わらず、ひとり親世帯の貧困が改善しない
  • 女性の就業環境、賃金の格差があまりにもひどいせいで、シングルマザーの就業率は先進国でもトップレベルで高いのに、働くほど貧困になる
  • 日本で子育てしながら働く中高所得者層は、所得制限によって児童手当や私立高校無償化などの補助を受けにくく、所得が多くても子育てをすることが家計を圧迫する

また、政府の分配制度の仕組みによって、子育て世帯や若者がじつは損をしている、中でも0~4歳の子どもがいる世帯ほど貧困率が悪化しているという、驚くような現状も明らかに。

末冨先生が考える、子育て社会の一番のゴールは「子どもの幸せ=ウェルビーイングが実現できる社会」
ウェルビーイングとは、最低限の生活を保障するサービスだけでなく、人間的に豊かな生活ができることを指しています。
しかし今の日本は、親子の最低限の生活もままならないような「ウェルビーイング」とはほど遠い日本。

「こんな世の中では子どもを生み育てたいと思ったりはできない」という末冨先生の言葉に、画面の前で多くの視聴者が共感していました。

いま求められるのは「少子化対策」ではなく「子ども・家族対策」

だからこそ今求められているのは少子化対策ではなく『子ども・家族対策』なのだと、末冨先生は語ります。

現在の少子化対策は出生率を上げること、産んで育てることがゴール。けれども、それでは現在の「産み育てにくい」子育て社会は変わりません。
それに対し『子ども・家族対策』のゴールは、「子どもと親が幸せになる社会」です。

子どもも大人も幸せになる社会であれば、子どもがいない人も幸せになれる。

そのためには経済的支援は必要不可欠であり、自身も子どもが0~2歳のときその保育料の高さにとても悩まされてきたというエピソードに触れた上で、
「まずはすべての若者に広く薄く保証されるべき、そのうえで低所得層中所得層により手厚くするべき」
と末冨先生は提起しています。

子育てにもケアマネが必要!介護保険制度のような子育て支援制度を

さらに「子育て無理ゲー社会をどうやって変えていくか?」について、フローレンスの代表理事を務めている駒崎さんより、フローレンスが考えている「こども庁八策」が発表されました。

その中で特に盛り上がったのは、虐待を抑止できる社会の仕組みと、保育園の未来についてです。

子育て支援制度を変えていこう

まず第三策の「虐待を未然に防ぐ リスク家庭支援サービスの導入を」について。 「虐待支援制度でも、介護保険制度のような新たなサービス制度を作る必要がある」というお話でした。

介護保険サービスや障害児の福祉サービスでは、登録を行った事業者がサービスを行い、そのサービスごとに点数がつけられ、その点数ごとに補助金が入ってくる仕組みになっています。

しかし、虐待支援制度には介護保険制度のような明確な補助制度がないことから、支援がどんどんと遅れていく現状を、駒崎さんは指摘した上で
「補助制度をもっとクリアに。例えば訪問支援を1回したら〇点、食料支援をしたら〇点とか、明確に制度化すれば事業者が支援ができる。」
と、サービスの具体的な改善内容についても触れられました。

また、介護を実際に体験したという末冨先生から、
「我が家の介護は、ケアマネージャーさんがいたからお金の事も心身の負担もどうにかなった。でも、子育てにはケアマネージャーがいないですよね。」 という疑問があがると
「子育てにもケアマネージャーが必要」
という議論に発展。

駒崎さんからは
「ケアマネがいないから、親が子どもに関する何もかもを全部調べなければいけない、だから制度はあるのに使えない、助けを呼ぶキャパもない。」
といった孤独な子育て=「孤育て」の悪循環が挙げられ、
「子ども版ケアマネージャーがいて、お金の相談もできて、減免措置の案内もしてくれる。そうしたら親の負担もかなり減っていくのではないか?」
と、ケアマネージャーがいることによる子育て負担の軽減についても、前向きな意見が交わされていきました。

保育園をみんなのものへ

第四策にあったのが「保育園を共働き家庭のものからみんなのものへ」。
これは「専業主婦も含めて全ての家庭が保育園を利用できるように」という政策案です。

今の保育について駒崎さんは
「基本は親が育ててください、でも保育を必要な人には認定してあげますという今の保育のあり方は、本当に正しいのでしょうか?」
と疑問を投げかけた上で、こう提起しています。

「特に0~2歳で利用できている人はまだ少なく、子育ての孤独感や不安感が高まりが原因となって虐待やネグレクトに走ってしまう実情があります。だったら、すべての家庭が保育園を利用できるようにすればいいんです」

「待機児童問題はあと1~2年で解消するといわれています。そうすると保育園が余ってしまう、だから余った枠に関しては今まで預けたいのに預けられなかった人に開放する。みんなのための保育園に変えて行ったらどうでしょうか?」

駒崎さんが提案するみんなの保育園は、毎日預けなくてもOKで、その家庭その家庭に応じた保育園の関わり方ができるというもの。

それが実現すれば、預けることによって親の心にも余裕ができるのはもちろん、虐待や親のSOSの早期発見にも繋がりそうです。

時代は変化している!「子育て無理ゲー社会」を変えるのは”投票と声”

これまでの話を踏まえて「子育て罰を失くすためのカギは声と投票」なのだと、と末冨先生はいいます。

「出口調査が発達したため、選挙コンサルタントを通じて、どんな世代からの1票がどこに投じられたかがわかるようになったんです」。

デジタル化が進んだことで、投票された1票がきちんと分析されるようになり、そして政治家がその分析を結果を非常に気にするようになったため「いわゆる『死に票』がなくなった」のが現代社会。

だからこそ、若者や子育て層が投票へ行き、自分たちが求めている政策や支援を応援する、自分の意見に少しでも近い候補者や政党に投票することの大切さを投げかけました。

さらに「声をあげる」ことの大切さについては、駒崎さんからもこんなお話が。

「典型的な例はツイッターでバズった『#保育園落ちた日本死ね』です。あの前後で、日本の保育政策はがらりと変わっていったんですよ」

その際には待機児童解消に関する勉強会の講師として、主要政党に呼ばれていたという駒崎さん。ツイート以前には待機児童問題の現状が全く知られていなかったという状況に、とても驚いたのだそう。

「待機児童問題の現状を政治家たちに届けたのは、確実にあの『#保育園落ちた日本死ね』のブログ なんです」

だからこそ駒崎さんはこう述べています。

「今は政治家も、ツイッターやFacebookをかなり見ています。だからこそ子育てがどんなに大変か教えてあげる、不安や不満をどんどん発信するべきです」

もっとも大切なのは「子どもの権利と尊厳」

さまざまな政策を紹介していく中で、特におふたりが強調されていたのは、もっとも守られるべきは「子どもの権利と尊厳」であるということ。

しかし、今現在の日本では子どもの権利よりも親の権利が強調されているという実情です。

おふたりはそんな日本の親権制度において親の権利がことさらに強調されている状況に疑問を呈し「子どもの権利が最上位に守られるべき。親はそのための責任や責務を負っている」と主張しました。

これでは、親の責任がより重くのしかかるのでは?と思いましたが、その後はこう続けています。

「子どもは親の所有物ではなく、社会全体のもの。だからこそ、親だけに責任がのしかかる社会がおかしい」

私たちが目指すべき子育て社会は、子どもの権利と尊厳が守られた上で、大人も負担を分け合える、みんなにやさしい社会なのです。

「親ガチャ」という言葉がバズる時代に

駒崎さんが最後に触れたのは、最近SNSで大いに話題となった「親ガチャ」という言葉。親ガチャとは、選べない親の経済状況や志向によって、子どもの人生は決まるといった意味です。

「子どもは家庭の状況を選べない。生まれた瞬間から差が出るのは実感していて、本当に親ガチャだと思う」と共感した上で、
「教育支援・政治支援が充実すれば、親がどうであれ子どもの権利と尊厳が守られる社会になる」とし、親ガチャは支援によって緩和することができるのだといいます。

また“ひとりの子どもを育てるには村1個必要だ“というアフリカのことわざを例に挙げて「親だけが子どもを育てる社会から、社会全体で抱きしめて励まして一緒に進んでいける社会へ我々が変わっていかなければできない」と私たちに投げかけさせました。

そう、この子育て無理ゲー社会を変えるために、来たる選挙も含めて「問われてるのは政治家ではなくて実は私たちである」(駒崎さん)といえるのでしょう。

***

ふだんなんとなく感じている子育てのしづらさや社会的・金銭的な不安。実際に私たちが思う以上に日本は深刻な状態なのだということがわかりました。

同時に、言わなくてもわかってもらえるだろうという甘えが、この社会を作り出した一因であることを実感し、声をあげること、投票へいくことの大切さを、身に染みて感じるLIVEでもありました。

自分たちと子どもの未来を守るために、まずは親世代の私たちが、今できることからさっそくはじめていきたいですね。

Youtube LIVE動画はこちらからご覧いただけます

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お話を伺った方

認定NPO法人フローレンス代表理事 駒崎弘樹

2004年にNPO法人フローレンスを設立。日本初の「共済型・訪問型」病児保育サービスを開始し、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートする。その後、子ども子育て新制度における小規模保育所のモデルとなった「おうち保育園」の立ち上げや障害児保育事業や赤ちゃん縁組事業など子育て支援に広く関わっている。 現在、厚生労働省「イクメンプロジェクト」推進委員会座長、内閣府「子ども・子育て会議」委員を務める。一男一女の父であり、子ども誕生時にそれぞれ2ヶ月育児休暇を取得。 駒崎弘樹さんnote

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執筆者

ライター Ichika

山梨県生まれ。関西、九州での生活を経て11年ぶりに地元に戻りライター業をスタート。身内や友人に教育関係者が多く、たくさんのヒントを得ながら自分なりの育児を模索中。子育て経験をもとにした体験談やコラムも発信しています。

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