正解のない子育てで唯一正解なのが「子どもの権利」。ちょっと難しいけど、親としていま知っておきたいこと・すぐ始めたいこと

正解のない子育てで唯一正解なのが「子どもの権利」。ちょっと難しいけど、親としていま知っておきたいこと・すぐ始めたいこと
【子どもの権利を考える】「子どもの権利条約」の要点をチェックしながら、親が配慮すべきわが子の権利、何から始めたらいいのかを教育方法学の専門家・中山芳一先生と一緒に考えます。
目次

昨今よく話題になるジェンダーや教育虐待、ハラスメント…などの問題。その根っこにあるのは人権への意識です。

子どもの権利の話…というと、とっつきにくい印象を抱く親御さんも多いかもしれません。でも、多くの親は子どもの意思をないがしろにして親の考えを押し付けたいと思っているわけではないし、わが子に人の権利を尊重できない人間になってもらいたくないと思っているはず。

18歳未満の子どもの基本的人権を国際的に保障するために定められた条約「子どもの権利条約」の締約国に日本がなったのは1994年のこと。しかし、その内容について知っているという親御さんは少ないのではないでしょうか。

日々子どもと接するときに、本来配慮すべき権利。「おやこのくふう」では「子どもの権利」について今一度考える機会をもちたいと思い、保護者や学生への講演などで子どもの権利について啓蒙する機会が多いという岡山大学の中山芳一先生にお話をお聞きしました。

正解のない子育てで唯一正解なのが「子どもの権利」

編集部:日本は子どもの保護の対象として扱うことが多いですよね。ふだんあまり「子どもの権利」を意識する機会がないように思います。

中山芳一先生(以下、中山):「子育てに正解はない」とよく言われますが、私は"子どもの権利を守る"ということは、子育てにおいて唯一の正解だと思っています。

子育て軸の連載で「親は子育てにおいて自分なりの判断基準さえもっていれば、あとは自由にしてOK」というお話をしました。
この自分なりの判断基準の基本として押さえるべきところにあるのが子どもの権利を守る、ことだと思っています。

その基本的な考えをもたないまま「子どもとどんな関わりをすればいいのか」「どう声かけをすればいいのか」ということばかり考えてしまっているのが、今の日本の子育ての問題だと思うんです。小手先の「魔法の言葉」を探すのではなく、基本的にやっちゃいけないベースをしっかり持てば、あとは親がどんな関わりをしようがOKです。

つまり、あれこれ表面上の関わり方を考える前に、子どもにとって最も必要なこと(権利)をちゃんと知っておこうよ、ということなんですよね。

編集部:なるほど。「子どもの権利に配慮した声かけとは?」と、まさに基本を理解していない質問をするところでした…。
逆に考えると、その子どもの権利だけ知っておけば、子育ての現場で迷うことがあったときに、どうすればいいのかが自ずと見えてくるというわけですね。

中山:そうなんです。難しいことではなく、むしろそこだけ押さえておけば大きく間違うことはないんです。

特に日本という国で長く暮らしていると、権利という意識を持ちにくいですよね。忖度や根回しという言葉が存在する時点で、日本がいかに空気を読む文化にあるかがわかります。

ですから、まずは権利とは何か、というお話から。それは人が他者と暮らす中で「お互いにここまでできるよね」という境界のこと。それをどちらかが阻むことがあれば権利侵害になります。自分の権利を守ってほしいから、相手の権利も守ることが前提となるわけです。

だけど、その"ここまでできる"という権利ですが、多くの人が当たり前にできることでも、子どもなどの社会的に弱い立場の人にとってはできないことがあります。
だからこそ、子どもたちの「できない」を見過ごさないようにするためにも、弱い立場である18歳未満の子どもが守られるべき権利を敢えてはっきりさせて「子どもの権利条約」として定められたんです。

子どもの権利条約「児童の権利に関する条約」の押さえるべき要点

  • 1989年国連総会にて採択、1994年日本でも批准し、現在世界196か国が締結している
  • 前文と本文54条からなり、本文の42条は万国共通の内容で、残りの12条はそれぞれの国独自の内容で構成されている
  • 権利の内容としては、「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」「参加する権利」を4つの大きな柱としている

何か迷ったときに、「うちの子の生きる権利・育つ権利を守ってあげられているんだろうか」と考えてみると、たとえば、医療ネグレクト(子どもにとって必要な医療を親が受けさせないこと)は絶対にやっちゃダメなことであるとわかりますよね。

日本でとくに注目すべき「参加する権利」

中山:「生きる権利」「育つ権利」「守られる権利」については、ピンとくると思いますし、その重要さを親御さんはよくわかっているのではないかと思います。

私がとくに注目してもらいたいのが、参加する権利=意見表明権です。
具体的には12条の「子どもは自分の意見を自由に表す権利をもっている」にあたります。

編集部:子どもに"意見を表明する権利があるよ"と伝えるにはどうしたらよいのでしょうか。中山先生はふだん3人のお子さんとの毎日の中で、どのようにされていますか。

中山:まずは何かを決める場面があれば、大人だけで決めずに必ずそこに子どもを同席させること。

そして、子どもが何か言いたそうにしていたら「言ってもいいよ」と促す、発言を大切にすることから始めるといいと思います。
そのときに「もちろん、あなたにはそういう権利があるから(あなたはそれができるんだよ)」と伝えてあげられるとよいでしょう。

些細なことでもOKです。

たとえば、外食で何を食べる?となったとき。
わが家で私と息子がノリノリで「焼肉に行きたい」となって、娘に「焼肉行くで」と言うと、「え?」という反応になるときがあります。そんなときは、「あ、イヤだった? じゃあ、何食べたいの?(言っていいよ)」と必ず意見を聞きます。「私、うどんがいい」なんて意見を言ってくれたら、家族でどうするこうする、と話していけばいいのです。

そういう日常の些細な場面で、"自分も対等に意見を言える"ということを伝えていくことが大切ですね。
間違っても「お父さんは焼肉食べに行きたいんだ、誰がお金払うと思っているんだ」なんて発言は絶対ナシ!!

食べるものを選ぶとか、着る服を選ぶとか、小さいうちは日常的に物選びで意見表明権を伝えるのがよいかもしれませんね。選ぶ場面があったらチャンスです。

まずは声かけの語尾を「提案スタイル」にしてみることから

編集部:子どもが表明した意見、それを尊重することが大切だとわかっていても、親として教えなければいけない部分もありますよね。

たとえば、子どもに「YouTubeをもっと見たい」と意見を表明されても「いいよ、じゃあ見たら」とその意見を尊重してあげられないですし、正直困ってしまうかも。"子どもの権利の行使"と"親として教えたいこと"のバランスがすごく難しいです。

中山:私は基本、子どもと「合意形成」ができていればそれだけでいいと思っています。
「こうしたいんだけど、どう?」という提案の中で得られる合意(納得)です。相手の権利を守るということはその合意形成の中で作られているものととらえればいいのです。

たとえば今の例だと「あなたのYouTube見てる時間、長すぎると感じるんだよね。いま2時間くらい見ているからせめて半分の1時間くらいにしたらいいと思うんだけど、どうかな?」という感じです。

それで同意が得られれば無理強いではないし、相手の意見も聞いているので権利は守られています。「叱る」「注意する」「指導する」ではなく、頭の中でつねに提案するという感覚をもてば取り入れやすいと思います。

わが家は基本そうです。あまりNOと言うことはありません。それですごくどうしようもない状況になるかといえば、そうではないですから。

もちろん「そんなことやめなさい!」と注意することがあってもいいと思います。子どもの安全を守るため緊急性があることもありますし、人間なのでかっとなって怒ることがあってOKです。

私も年1回くらいで、ものすごく怒ることはありますが、それはそれでいいと思っています。だって、私たちはAIじゃない、感情をもった人間なんですから(笑)。

あくまでデフォルト(初期設定)の状態を「そんなことやめたらいいと思うのだけど、どう思う?」という提案スタイルでいくとよいでしょう。

編集部:たしかに"提案スタイル"にすると、子どももムキにならずに受け入れてくれそうですね。語尾だけ変えるというのは初めの一歩としては取り入れやすそうです。

中山:ちょっと感情的に言い始めたとしても、話すうちに思い出せば、語尾を「~しなさいよ」ではなく、「~した方がいいと思うけど、どう?」に変えられますよね。
そして、子どもも大体よくないとわかっていてやっていたりもするので、「う、うん」と合意を得られやすいかもしれません(笑)

基本は1人の人間として対等に話をすればいいだけ。自分の友人や仕事相手にしないような言い方はわが子にもしない、というのが人権を尊重することですよね。

編集部:主旨は同じことを伝えるにしても、子どもとよりフェアに向き合うことができますね。

言葉でのやり取りができれば基本の提案スタイルは年齢を問わない

編集部:提案スタイルのやり取りについては、幼児期も中高生になっても、基本の考え方は同じでしょうか。子どもの発達によって変えていくべきことはありますか?

中山:基本は変わらないです。 しいて言うなら、言葉でのやりとりが完全にできない3歳ごろまでは同じ提案スタイルでも「どっちがいいかな?」などのクローズド・クエスチョンにして選ばせてあげるというのはいいですね。

4歳ごろになればかなり会話が成立するようになるので、「どう思う?」と意見を求めることができるようになっていきます。

そしてギャングエイジ期の10歳あたりを機に、より論理的なやりとりができるようになり、単なる提案ではなく議論の時期に変わっていきます。わが家も中学生の長女とはより議論に近くなり、より深く話すようになりました。

私はよく保護者にも「小4以降は議論を楽しんでください」と言っています。このあたりの年齢から、子どもとのやり取りの質が変わってくるので、ぜひそれを楽しんでいただきたいなと思います。

議論をしないで「まだ子どもなんだから」「それは大人が決めることだから」などシャットアウトしてしまうのは権利侵害です。

人の権利を守れるようにするために…家庭で心がけたいこと

編集部:ここまで子どもの権利の話をしてきましたが、他者の権利も尊重できる人間になるには、家庭では"親にも権利がある"と、子どもに認識させる必要もありますよね。
家庭の中で個々の「権利」はどう意識して過ごせばいいのでしょうか。

中山:先ほどの外食の行き先を決める例を挙げましたが、基本はそういう家族お互いの意見を大切にして過ごすことの積み重ねですよね。

最近、わが家で私たち夫婦の言い合いになる場面がありました。
妻が悩んでいることに対して、私が五月雨式に発言をしていたら、離れたところで朝食を食べていた小1の息子から「お父さん、それはお母さんが決めることだよ。お父さんが決めることじゃないよ」と言われてしまいました(汗)。

日頃から自分の意見を尊重されているからこそ、彼がそういう認識に立ってくれているのかな…と思うと、手前味噌ながらすごくうれしかったですね。

編集部:自分の権利を守りたいから、人の権利も守る、という考えにつながっていくのですね。

後出しじゃんけんでなく「嫌なときはイヤと言う」ことが大切

中山:また、わが家では嫌なときに「イヤ」と言えることを大切にしています。「後で言っても聞けないよ」と、いうように。

日本は"後出しじゃんけん"ができてしまう風土なんですが、海外ではそれが認められない国もたくさんあります。

海外在住の方から聞いた話ですが、たとえば誰かとやりとりしている途中で「イヤだな」と感じたときに、その場で「それはイヤだ、やめてほしい」と相手に伝えるようにします。それでも相手がやめてくれない場合は、然るべき対応をするわけです。
でも、日本の場合はそのとき言わなかったのに、あとになって「あのときはイヤだった…」と後出しで話されることが多いですよね。

この日本人のNOが言えない性質は、今後、世界の国境がなくなる時代には最大の弱点になってしまうと考えています。

そのためわが家では"イヤと言いやすい環境"を作っています。「よくイヤって言ってくれたね」という声かけや、「そうやって断ってくれたらこっちもわかりやすいわ」というフィードバックをするようにしています。
また、大人も嫌なときは「イヤ」ときちんと表明するようにしています。

子どもの権利に配慮することで子ども自身が幸せになる

編集部:子どもの権利を守るために、すぐにできるヒントをたくさん教えていただきました。
突然「わが子の権利を守らなくちゃ」を焦る必要はなく、まず親が子どもの権利について知識として知っておくことが大切、そしてそれを実行することは決して難しくないということがわかりました。

中山:子どもの権利を守るために合意(納得)を得ることが大切、という話をしましたが、この"自分で納得して決める"ってとても大切なことなんです。

学歴、世帯年収、自己決定指標(どれだけ自分で決められることが多いか)のうちいずれが人の幸福感に影響を与えるのかを調査した「幸福感と自己決定についての調査」*というものがあります。その結果で、自己決定できることがもっとも人の幸福感に強い影響を与えることがわかっているんです。

自己決定とは何もないところから1人で決めることだけではありません。子どもが納得して合意できれば、子ども発のことでなくても、自己決定となります。

つまり、わが子の権利を守ることは、幸福感を上げることにもつながるんですね。そういった意味でも、親が子どもの権利に配慮することの意義は大きいですよね。



参考:「子どもの権利条約」日本ユニセフ協会
*「幸福感と自己決定ー日本における実証研究」(西村和雄、八木匡、独立行政法人経済産業研究所 /2018年)

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お話を伺った方

岡山大学准教授 中山 芳一

1976年岡山県生まれ。岡山大学 全学教育・学生支援機構准教授。専門は教育方法学。大学生のためのキャリア教育に取り組むとともに、幼児から小中高学生の各世代の子どもたちが非認知的能力やメタ認知能力を向上できるように尽力している。9年間没頭した学童保育現場での実践経験から、「実践ありき」の研究をモットーにしている。『家庭、学校、職場で生かせる!自分と相手の非認知能力を伸ばすコツ』『学力テストで測れない非認知能力が子どもを伸ばす』(ともに東京書籍)ほか著書多数。最新刊は監修をつとめた『非認知能力を伸ばすおうちモンテッソーリ77のメニュー』(東京書籍)。

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