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のんたん先生教えて!子育ての気になる…どうすべき?

言いたいことが言えないわが子…「自分の意見を言える子」に育てるために、大人が身をもって伝えるべきこと

言いたいことが言えないわが子…「自分の意見を言える子」に育てるために、大人が身をもって伝えるべきこと
兵庫県西宮市の「森のようちえんさんぽみち」の園長"のんたん"こと野澤俊索さんが、幼児期の子育てで気になるあれこれを綴る連載。今回のテーマは「子どもが言いたいことを言えないとき」。
目次

わが子が社会生活でさまざまな経験をするときに、お友だちや先生に自分の気持ちを伝えられなかったり、うまく伝わらなかったことでトラブルになることもありますよね。

そんなとき、わが子につい「ちゃんと言わなきゃ」などと言ってしまいがちですが、子どもが自分の思いを伝えられるようになるためには、促すことよりも大切なことがあると「森のようちえん さんぽみち」園長の野澤俊策さん。子どもにとって"伝える"ことの難しさと、大人の寄り添い方について教えてもらいます。

***

広場で子どもたちが遊んでいる時のことです。4歳と5歳の男女5〜6人で追いかけっこをしていました。ひとりの男の子が大きな声でみんなに、ああしろ、こうしろと指示を出し、それに従って他の子たちは追いかけっこをしています。

子どもたちはずいぶん長いこと、その追いかけっこをしていたのですが、そのうちひとりの4歳の女の子の顔が曇っていることに気がつきました。それでもその追いかけっこはずっと続いていました。

しばらくして、子どもたちに「それって、どんな遊びなの?」と声をかけました。みんなは、あの子の言うとおりに動く遊びだよ!と言いました。「でも、楽しくなさそうなひとがいるよ?」と聞くと、みんな、え?と驚いた様子。そこで、みんなでお話ししました。

笑顔が見られなかった女の子の話を聞きました。
「どうしたの?」
「・・・」
女の子は、そのうち涙を流しはじめました。そして時間をかけて言葉を絞り出しました。
「…言うとおりにするのは、ほんとはいやなの」

それを聞いて子どもたちはびっくりした様子でした。
「そうなんだ。みんなは楽しかったの?」
「うん」
「でも、こうやって楽しくないひともいたんだね」
「うん…」

自分だけが楽しいんじゃなくて、みんなが楽しくなるように、お話しできると良いね!というと、みんなは「うん!」と強く返事をしました。

よくしゃべる子が自分の思いを伝えられるとは限らない

また別の日のこと。いつも明るく元気な5歳の女の子。今日は一人で沈んだ顔をしています。どうしたの?と聞くと、ぽつりぽつりと話し始めました。

「お友だちに、それは幼稚園のお約束と違うよって教えたら、あっちにいって!って言われたの」
どうやら、決められた場所と違うところで遊んでいた子を注意したようです。
「そう。その子は怒ってたの?」
「すごく怒ってた」
「もういいの?」
「もういいの」

でも、なんだか釈然としません。そこで、「じゃあ、一緒に行ってあげるから、もう一度言ってみる?」と聞くと、「うん」との返事。

そして、勇気を出してもう一度伝えに行きました。すると相手の子は言いました。
「ここで遊んでもいいって、ちゃんと先生に聞いたの!だからいいの!」
「なるほど、そういうことなんだ!」と分かったので、お互いの気持ちを通訳して伝えると、双方が理解したようで、にっこりとしていました。

お互いの気持ちのすれ違いに加えて、それぞれの情報のすれ違いも起きていて、その伝達が未熟なのでこのようなことが起きるのですね。

幼児期の子どもたちは言葉や表現の獲得の時期にいます。気持ちや状態を表す言葉や表現をまだ知らないのです。どういうタイミングで伝えたらいいかもまだわかりません。

自分の思いを相手に伝えることは子どもにとって、とても難しいチャレンジです。性格的によくしゃべる子、物静かな子もいますが、それが言いたいことをしっかり伝えられるということに直結するとは限りません。

"伝えることの大切さ"をわが子に伝えるために

「自分の意見を言う」というアウトプットの前に、まず情報や気持ちを取り入れるインプットが必要です。そして、そこからアウトプットしても受け入れられるんだという自己肯定感の醸成が重要です。

まず、子どもたちの声に耳を傾けましょう。伝えることはいつも聞くことから始まります。

大人がまず聞く姿勢を見せて、子どもたちの言葉を肯定的に捉え、ふさわしい言葉を教えたり、代弁して表現したり、一緒に伝えたりすることで、子どもたちは「伝える」という行為そのものを知ります。

そして、ちゃんと聞いてくれたことで認められた自分を感じ、自己肯定感を高めていきます。そして一緒に伝えたりお話をしたりすることで、伝えるということのロールモデルとして大人を見ています。

「大切なことは、しっかりと伝えないといけない」ということも、その時にメッセージとして子どもたちに伝わります。伝えることの大切さは、大人が身をもって子どもたちに伝えることなのだと思います。


※写真はイメージです

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執筆者

森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索

NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。

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第2・4木曜日 更新

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