連載
のんたん先生教えて!子育ての気になる…どうすべき?

なぜ虫に残酷なことを?子どもが経験でつかみとる"いのちの感覚"とそのときの"大人の反応"を大切に

なぜ虫に残酷なことを?子どもが経験でつかみとる"いのちの感覚"とそのときの"大人の反応"を大切に
子どもが虫などの生き物に残酷な行動をするのはなぜ?その理由や、親はどう対応すべき?「森のようちえん さんぽみち」(兵庫県西宮市)の園長"のんたん"こと野澤俊索さんに、子育ての中で気になるテーマについて自然保育でのエピソードを交えて綴っていただくこの連載。今回は生き物との関わりについて。
目次

ダンゴムシ、チョウチョウ、テントウムシ、アオムシ、ザリガニ…子どもたちがたくさんの生き物にふれることができる今の季節。
ときには、生き物を乱暴に扱う、踏みつぶすなど、残酷なことをしてしまうことも。

どうしてそんなことをするの?将来猟奇的な子になってしまうのでは…?

つい心配になってしまう親の気持ちを、自然保育を実践する「森のようちえん さんぽみち」の園長、野澤俊索さんにお聞きしました。

***

梅雨に入り雨が続くとカタツムリやカエルが出てきて、見つけた子たちはおもしろそうに見つめたり捕まえたりします。季節が進み、たくさんの生き物が見られるようになってきました。

虫たちがどこにいるのかわからない、というのが子どもたちにとっての始まりです。いるところが分かるようになると、その目はどんどん虫を見つけます。見つけることができるようになったら、不思議に見とれているうちに手がでて触りたくなります。怖いと思う子もいれば、臆さずギュッと握る子もいます。

触れるようになると、宝物を見つけるようにたくさんの生き物を捕まえたくなります。そしていじって触って手の中で転がしてみたくなるのです。

動く様子がおもしろいと思って、アリをひたすら踏んづけるのもよくあること。思わず「わあ、かわいそう!」と言ってしまいますよね。

小さな命を踏みにじって、わが子は大丈夫だろうかと心配になることと思います。そんな心配な気持ちも自然なことだし、子どもの行動ももちろん自然なことです。それはどうしてでしょうか?

"生きている感覚"は子どもが自分でつかむもの

先日、園でこんなことがありました。
年少の女の子が、土を掘っていたらミミズが出てきました。喜んで捕まえたその子は、手の上でミミズをいじっているうちにミミズの体が半分にちぎれてしまいました。その子はちぎれたミミズを持ってきてこう言いました。

「また、はえてくるよ」

ああそうか、トカゲのしっぽが切れてもまた生えてくることを知ってるんだね。だから、トカゲのしっぽと同じようになる、ということなのでしょう。

「ミミズはね、ちぎれたらもう生えてこないんだよ」と言うとその子は「どうして?」と言いました。「どうしてだろうね」と答えても「また、はえてくるよ」の繰り返し。

そして可愛くてかわいくてたまらなかったのでしょう、ずっとミミズをさわっていたので、見ている私は「もうかわいそうだから、やめてあげて」と言いました。

またある日にこんなことがありました。
年長の男の子たちが小さなクワガタを見つけて喜んでいました。そのうち、そのクワガタを机に叩きつけて「ほら!ひっくりかえった!」と言って笑っています。それを見ていた大人が、あんまりかわいそうになって「それは生きているんだよ!やめて!」と言いました。

子どもたちは生き物と触れ合ううちに、生きているということと死んでいるということを感じるようになります。それからその間にある、弱っているとか元気だとかを感じるようになります。こうして見えない"いのち"を手の中で感じ取るようになります。

教えることのできないこの"生きている感覚"は、自分の手のひらでつかむものなのです。

いのちの感覚と"かわいそう"の気持ちをつなぐ大人の言葉

いのちを感じるようになってはじめて、自分と重ねて「かわいそう」という気持ちがわいてきます。大人は今までにたくさんの気持ちを経験しているのでそれが分かります。
そしてそれは何度でも子どもに伝えていいことだと思います。

「ミミズさん、痛そうだよ!かわいそう」
「クワガタも生きているんだ!おもちゃじゃない!」

その大人の言葉は、子どもに芽生えてきたいのちの感覚と、そのいのちを大切にする気持ちがちゃんとつながるために必要なカギなんだと思います。

そんなことがあって、園では子どもたちにこんな話をしました。

「みんなが生き物を捕まえたいっていう気持ちや、捕まえてうれしい気持ちになるのはとってもいいことだと思うよ。でも、その生き物をおもちゃにするのはとっても悲しい気持ちになります。どんな生き物だって生きているし、生まれたところで生きていたいの。

でも、今日はこうやってみんなの手の中にやって来てくれたんだよ。だから、いらっしゃいって大切にしてあげてね」

ようやくいのちに触れていのちと向き合うことを始めた子どもたち。
興味を持つことはとてもいいことだし、そのいのちをもてあそぶようなことがあってもそれも経験のひとつ。
いのちを理解するには、生も死も両方とも感じる経験が必要です。

もし、その経験が欠けたまま大きくなったら、どうでしょう?

いのちに対してリアリティを持たない人が、いのちを大切にすることができるでしょうか。そこには自分のいのちも含まれます。そう考えると、心配なのはむしろ、虫の生死にも触れずに大きくなることではないでしょうか。

そして、その時に大人たちが「どんな顔をしていて」「何を言っていたか」、はもう一つ大事なことなのだと思います。虫のいのちを奪う時に、大人は笑顔で見ているだけで何も言わないとしたら、その行為と感情はどう結びつくでしょうか。

虫たちのいのちを奪う子どもの中には、"かわいそう"という気持ちがいつか必ず沸き起こります。その時、あの時の大人の顔つきや言葉と結びついて、自分の気持ちに惑わず自信を持つことができるのです。

虫のいのちを奪ってしまう子どもの行動は、今はそう心配する事ではありません。
でもその時、「わあ、かわいそう!」という大人のとっさの一言は、将来子どもたちを惑わせないための大切なカギとなるのです。

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執筆者

森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索

NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。

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第2・4木曜日 更新

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