「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」とは?"目に見えない力"がより大切な社会を生き抜くために

「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」とは?"目に見えない力"がより大切な社会を生き抜くために
幼稚園や保育園、認定こども園では「幼児教育要領」や「保育所保育指針」を基に保育・教育が行われています。2018年に改定された際に共通項目として示された「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」について、保育士ライターが解説します。
目次

子どもたちが毎日過ごす保育園や幼稚園。
先生たちは、日々の保育を「指針」に沿って行っているのを知っていますか?
それぞれ、以下のような指針が文部科学省や厚生労働省によって定められています。

  • 幼稚園:「幼児教育要領」
  • 保育園:「保育所保育指針」
  • 認定こども園:「幼保連携型認定こども園教育・保育要領」

3つの指針や要領は管轄する省の違いはありますが、2018年にそれぞれ改定され3歳児以降のねらいや内容は同じ。
さらに3つの施設の共通項目として「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が策定されています。

園の先生にとって、この「10の姿」は卒園までに意識する身近な項目です。
「10の姿」にのっとり、一人ひとりに、またはクラス全体を通して、どのような支援・補助・保育・促しが必要なのか考え、その都度担任・職員間で話し合いをしています。

そんな「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」とは、どんな内容なのでしょうか。
保護者も少し知っておくことで、小学校へ入学するまでにどんな力をつけてあげたらよいのか役立つかもしれません。

今回は、元保育士の炭本まみが「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」について、簡単にご紹介しましょう。

「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」とは?

現在、幼稚園・保育園・こども園はともに3歳からは同じ教育機能があり、子どもの自主性や主体性を大切にしながら関わるという根本も同じです。

そのため、幼稚園も保育園も認定こども園も、「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」が共通の新しい子育ての指針でもあります。

「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」

  1. 健康な心と体
  2. 自立心
  3. 協同性
  4. 道徳性・規範意識の芽生え
  5. 社会生活との関わり
  6. 思考力の芽生え
  7. 自然との関わり・生命尊重
  8. 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚
  9. 言葉による伝え合い
  10. 豊かな感性と表現

「10の姿」はあくまで指針であり、このような子どもに育て上げなければならない、入学前までに到達していなければならないということではありません
このような子どもであってほしいね、こうなれるといいね、という保育の指針〜目指す子どもの姿であるだけです。

一人ひとりの子どもの姿や成長発達には個人差があります。だからこそ、この基本的な考え方や目指す姿と子どもを見つめ、どんな支援・助言・保育をすることで小学校生活をさらに楽しく主体的に過ごせる子どもになるかを、考えているのです。

「10の姿」はなぜ策定された?

核家族化や共働きの増加、デジタル社会…子どもたちの育つ社会や環境は、時代とともに大きく変化してきました。
さらにこれから先、世界中の人たちとの付き合いや、言語やコミュニケーションを必要とする機会も今以上に増えてくるでしょう。

そんな目まぐるしく変化する社会の中で、環境問題や貧困、少子高齢化などさまざまな課題が発生し、一人ひとりが自分の考えを持ち行動することが必要となっていくはず。

これからを生きる子どもたちに必要なのは、知識や学習、生活習慣やルールを守ることなど目に見える力のほかに、物事を多角的に捉えたり、自分の意見を持ち言葉で表現し相手に物怖じせず相手に伝えること、粘り強く答えを求めることなど目に見えない力がより必要な社会になります。

そこで、保育・幼児教育の段階から子どもの姿の捉え方、意識する関わり方について改めて策定することで、小学校への3つの柱である「知識・技能の基礎」、「思考力・判断力・表現力等の基礎」、「学びに向かう力・人間性等」などの力を培う土台作りにつなげていくのです。

園生活にどう反映される?

では実際の保育・幼稚園の教育現場では具体的にどのような考え方・取組みをしているのでしょうか。
文部科学省の「幼児教育部会における審議の取りまとめ」を抜粋しながら、実際に「10の姿」をどう意識しているのか確認していきましょう。

参考:幼児教育部会における審議の取りまとめ

1. 健康な体

幼稚園生活の中で充実感や満足感を持って自分のやりたいことに向かって心と体を十分に働かせながら取り組み、見通しを持って自ら健康で安全な生活を作り出していけるようになる。

園生活での具体例

健康や衛生面に自ら気を付け、手洗いやうがい、消毒やマスクなどの習慣を身につけている。

2.自立心

身近な環境に主体的に関わりいろいろな活動や遊びを生み出す中で、自分の力で行うために思い巡らしなどして、自分でしなければならないことを自覚して行い、諦めずにやり遂げることで満足感や達成感を味わいながら、自信を持って行動するようになる。

園生活での具体例

約束事やルールを子ども同士で自ら確認し合ったり、更に楽しくなるアイデアを出し合ったり、また、上手くスムーズに遊べるにはどうしたらよいのかを子ども同士で話し合う姿が見られる。

3.協同性

友達との関わりを通して、互いの思いや考えなどを共有し、それらの実現に向けて、工夫したり、協力したりする充実感を味わいながらやり遂げるようになる。

園生活での具体例

子ども同士で協力して一つのものを作り上げたり、成し遂げるために、意見や思いを出し合ったり受け入れあって結果だけではなく過程も自分たちで工夫することで充実感を得る。

4.道徳性・規範意識の芽生え

してよいことや悪いことが分かり、相手の立場に立って行動するようになり、自分の気持ちを調整し、友達と折り合いを付けながら、決まりを守る必要性が分かり、決まりを作ったり守ったりするようになる。

園生活での具体例

協力して物事に取り組むことの大切さや、喜び、充実感、達成感を味わう経験をする。

5. 社会生活との関わり

家族を大切にしようとする気持ちを持ちつつ、いろいろな人と関わりながら、自分が役に立つ喜びを感じ、地域に一層の親しみを持つようになる。
遊びや生活に必要な情報を取り入れ、情報を伝え合ったり、活用したり、情報に基づき判断しようとしたりして、情報を取捨選択などして役立てながら活動するようになるとともに、公共の施設を大切に利用したりなどして、社会とのつながりの意識等が芽生えるようになる。

園生活での具体例

家族や周囲の人との関わりや、お世話になること、ご縁などを感じながら生活し、社会生活を意識する。

6.思考力の芽生え

身近な事象に積極的に関わり、物の性質や仕組み等を感じ取ったり気付いたりする中で、思い巡らし予想したり、工夫したりなど多様な関わりを楽しむようになる。
友達などの様々な考えに触れる中で、自ら判断しようとしたり考え直したりなどして、新しい考えを生み出す喜びを味わいながら、自分の考えをよりよいものにするようになる。

園生活での具体例

興味関心のあることを見つけたり、自分の好きなものやことに気づき、学ぼうとしたり、新しいことにチャレンジする気持ちを育む。保育士はそのため多角的な視野で、様々なきっかけや情報、遊び、知識をあらゆる場面で子どもが選べるよう、保育の環境設定をしておく。

7 自然との関わり・生命尊重

自然に触れて感動する体験を通して、自然の変化などを感じ取り、身近な事象への関心が高まりつつ、好奇心や探究心を持って思い巡らし言葉などで表しながら、自然への愛情や畏敬の念を持つようになる。身近な動植物を命あるものとして心を動かし、親しみを持って接し、いたわり大切にする気持ちを持つようになる。

園生活での具体例

草花や動物、自然物や季節、天候など、自然環境に興味・関心を持ち、大切な気持ちをはぐくむ。自然に触れて遊ぶ中で、観察したり生育の仕方を考えるきっかけ作りをしている。

8 数量や図形、標識や文字などへの関心・感覚

遊びや生活の中で、数量などに親しむ体験を重ねたり、標識や文字の役割に気付いたりして、必要感からこれらを活用することを通して、数量・図形、文字等への関心・感覚が一層高まるようになる。

園生活での具体例

遊びの中で文字や数字と触れ合い、さらに見る・読む・書くだけではなく、文字や数字を使って表現したり計算することも経験させる。

9 言葉による伝え合い

保育士等や友達と心を通わせる中で、絵本や物語などに親しみながら、豊かな言葉や表現を身に付け、経験したことや考えたことなどを言葉で伝えたり、相手の話を注意して聞いたりし、言葉による伝え合いを楽しむようになる。

園生活での具体例

言葉を使って人とコミュニケーションをすることの楽しさ、意思の疎通ができ、意見の交換や言葉を通して相互の気持ちを知ることで、更に中が深まり、絆が生まれるなど、人との関りに欠かせない言葉でのコミュニケーションの大切さを、日頃から伝えていく。

10.豊かな感性と表現

心を動かす出来事などに触れ感性を働かせる中で、様々な素材の特徴や表現の仕方などに気付き、感じたことや考えたことを自分で表現したり、友達同士で表現する過程を楽しんだりし、表現する喜びを味わい、意欲をもつようになる。

園生活での具体例

子どもが自分の気持ちを表現する上で、感性や情緒を豊かに育てることの一つとして、音楽や自然との触れ合いなど、様々な遊びの経験が大切。言葉での表現がむずかしい年代であれば、楽しい気持ちを音楽に合わせてダンスすることや、小動物や植物などを通して感性豊かに感じ表現することを目指している。

小学校に申し送りする書類の基準にもなる

保育園、幼稚園、認定こども園の3つの施設は機能的には違いはありますが、子どもを保育する上での軸となる考え方である「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」はすべて同じ内容です。

先生方は日々の保育の中で、ただ子どもと遊んで過ごしているのではなく、子どもの課題や目標としていく姿を遊びを通して目指し、小学校での自立や自主性、想像性などが高く、社会で生き生きと過ごせるような子ども像を胸に保育しています。

特に年長からこういった関わりをより意識した遊びや生活をしていて、入学予定の小学校へは「幼児期の終わりまでに育ってほしい10の姿」と照らし合わせた子どもの状況を「保育所児童保育要録」にも記録し小学校に提出します。

【小学校入学の不安】知らなかった!園から学校に送る「要録」は何を書いてるもの?親の希望は伝えていいの?元保育士が徹底解説

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子どもが小学校入学後、生き生きと過ごせるように、ちょっとだけ&たまにおうちでも「10の姿」を意識した関わりをするだけでも、子どもは喜びを感じ、変わっていくことでしょう。いつもと違う会話や遊びをすることだけでも刺激になります。

また、ママやパパが自分に関心を寄せてくれていると感じることが、自己肯定感の向上にもつながります。
お時間のあるとき、ちょっと意識した声かけや関わりをしてみませんか?

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執筆者

炭本まみ

保育士として10年勤務し、今は中学生と小学生を育てるママ。未だに子育てに行き詰ることはありますが子育てのアドバイス記事を書きながら自分も振り返っています。趣味はキャンプと旅行とカメラ。アウトドア記事や旅行記事、保育士や保護者向けのコラムを執筆中。

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