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子育て先進国スウェーデンに学ぶコミュニケーション術

子どもは個人としてリスペクトされ「しつけはタブー」【子育て先進国スウェーデンの教育に学ぶ】

子どもは個人としてリスペクトされ「しつけはタブー」【子育て先進国スウェーデンの教育に学ぶ】
【現地の教育専門家が解説】子育てしやすい国・スウェーデンの教育はどのようなもの?子育ての特徴は?そもそも「子ども」という存在のとらえ方は?親の声かけやしつけなど日本との違いについてご紹介します。
目次

北欧・スウェーデン。アメリカの企業Asher & LyricがOECD35カ国を対象にした「子育てしやすい国ランキング2020」では、首位のアイスランド、ノルウェーにつづいて第3位(日本は25位)。
取得できる育児休暇の長さ、父親の育児参加率の高さ、大学までの授業料が無償など…子育て環境がよいというイメージがありますが、そもそも幼児教育の内容自体が進んでいるといわれています。

そんな育児先進国・スウェーデンにおける幼児教育とはどんなものか、そしてスウェーデンの親は子どもとどう関わっているのか、日本の子育てにも上手に取り入れるには?

スウェーデン・ストックホルムで、小学校の校長などの経験を経て現在は幼児教育に携わる田中麻衣さんに、連載「非認知能力って?どこよりもわかりやすく解説!」でおなじみ教育方法学の専門家・岡山大学の中山芳一先生と一緒にお話をお伺いしました。

対談前にチェック!スウェーデンの教育制度の基礎知識

学校制度

  • ~1歳半ごろ:家庭で養育する
  • 1歳半~5歳:「就学前学校」で就学前教育を受けられる
  • 6歳の1年間:義務教育の「就学前クラス」で入学準備教育を受ける
  • 7歳からの9年間:日本の小・中学校にあたる義務教育の「基礎学校」に通う
  • 3年制の高等学校
  • 原則3年制の大学
  • 「就学前学校」とは、1990年代に保育所と幼稚園が幼保一元化されてできたもので、今回お話をお伺いする田中麻衣さんは現在この就学前学校の運営に携わっています。

    教育の価値観

    民主主義社会の一市民として、自ら考え、行動していくための教育に価値が置かれています。幼少期より、自分で考えて意見が言えること、他者の考えにも耳を傾け、結論を出していくことを求められます。

    学習指導要領の改訂

    「国からの学校への要請」であり、拘束力のある学習指導要領。スウェーデンの学習指導要領は、世界や社会の動向にすばやく反応し柔軟に改訂を重ねています。
    最近では、2019年の改訂で『子どもの権利条約』の内容が盛り込まれました。

    では、さっそく田中さんにお話を伺いましょう。

    スウェーデンの子ども観:「子どもを一人の人間として尊重する」

    中山芳一先生(以下中山)私は一昨年スウェーデンに行って視察をして、福祉や教育について本当にリスペクトすることが多かったんです。子育てについての考え方も、すごく進んでいるなと思いました。
    具体的にスウェーデンの子育てにはどんな特徴があり、日本と違うのはどのようなことなんでしょうか。

    田中麻衣さん(以下田中)「子どもをどういう存在として見ているか」という"子ども観"が非常に日本と違うなと感じています。
    子どもは親の所有物ではなく、1人の人間として尊重されている、個人としてリスペクトされている、というところでしょうか。

    その背景には、「子どもの権利に対する意識」があります。
    スウェーデンでは、2020年に国連の『子どもの権利条約』が法制化され、それに先駆け2019年の学習指導要領改訂ではその内容が盛り込まれました。

    中山:「子どもは尊重すべき個人である」。この子ども観が「子どもは親の所有物である」という意識の強い日本との一番大きな違い。これが根底にあるので、教育にも違いが出てきますよね。

    田中:日本で生まれ育ち、大学教育までを経験した自分が思うのは…
    例えば、日本では、子どもはカラの状態の瓶であるとして、そこに教育でいろいろなものを詰めて完成を目指すイメージ。
    一方、スウェーデンでは、子どもは瓶にいろいろ詰まっている状態の存在とし、それ自体をまず尊重する。そのうえでその中身を見ながらこの子は何を持っているかを一緒に探しながら見ていくというのが教育です。就学前教育ではどんな体験をすればその中身を引き出せるのか、ということを考えています。

    スウェーデンでは、子どもを「こういう人にしなければいけない」と親がイメージをもつことはあまりないんですよね。

    日本ではどちらかというと、子どもは大人がしっかり教えてあげなくてはいけない、しつけなければいけない存在、という価値観かもしれません

    おやこのくふう編集部 編集部

    中山:ちなみに、そうしたスウェーデンの子ども観は、今の親世代が自分もそのように育てられたからこそ身についているものなのでしょうか。

    田中:スウェーデンは、女性の社会進出や福祉の考え方も含め、すごく短期間で価値観を変えていった国なんですね。その流れで子ども観についても変わってきました。

    自身がそうした教育を受けていない現在の親世代も、時代に合わせて価値観が変化することを充分に経験し、その変化への対応を自分の頭でしっかりとらえ、考えながら生きてきているので、価値観が変わることに柔軟な人が多いと感じています。

    子どもに対してネガティブな関わりをしない

    具体的に子どもへの声かけではどのような違いがあるのかが気になります。

    おやこのくふう編集部 編集部

    中山:スウェーデンでも日本でも、親が子どもに対して困る場面はきっと同じですよね。
    たとえば、朝遅刻しちゃいそうな時間なのに、子どもがちっとも急がないとする。そんなとき日本の親は「急いで!」「早くして!」「何してるの?」「いい加減にして!」と、つい声を荒げてしまいがちですが、スウェーデンの親御さんだったら…?

    田中:同じように「急いでるから早く早く」となっている親御さんは多いですよ(笑)。私も親御さんからよく「どうしたらいい?」と相談されたりもします。
    ただ違うのは、声を荒げて叱ることがないのと、子どもは別の人間だから自分の思い通りにならなくて当たり前、という意識を持っていることでしょうか。

    そのうえで、「今日は幼稚園で何しようか」「お友だちに会えるの楽しみだね!」などの声かけはすごくしますよね。1人の人間として、相手がどのくらいわかるかはこちらが判断しないで、きちんと説明をします。
    そんな対話レベルで声をかけること。あとは、「仕方ないなー」としばらく見守っている姿などもよく見かけますね。

    子どもの頃って、親の都合による理不尽なことが多いですよね。朝急がなければならないというのも、親が仕事に間に合わないという都合、まわりにしつけができていないと思われたくないという都合…。だから、子どもにとっては理不尽な要求である、そう考えるとちょっと心を広く持てるかもしれませんね。
    そういう面で、絶対的な方法はないんですが、許容する範囲は広いのかもしれません。

    中山:だらだらする、だだをこねる、好き嫌いする…そんな各国共通の子どもの困りごとに対して、スウェーデンの親が劇的にポジティブな解決方法をもっているわけではなく、私たち日本の親がついやりがちなネガティブな関わりを絶対しないと順守しているかもしれませんね。
    怒鳴ったり、しないと罰を与えるというような声かけをしたり、無理やり連れて行ったり…のような。

    田中:声を荒げることはよくない、という共通認識はあると思います。もともとスウェーデンの人たちがそういう気質だということもありますが…。
    そういう接し方は「虐待」と思われてしまいます。声を荒げたからといって、状況はよくならないですしね。

    中山:声を荒げることについては、たとえば会社の人が相手ならしないのに、子どもにはする、というのはおかしいですよね。「子どもは親の所有物である」という意識がどこかにあるからかもしれません。

    私の子育て持論でもあるのですが、「偉い人に怒れないことであれば、子どもにも怒るな」というのがあります。たとえば、相手がうちの大学の学長であっても、総理大臣の菅さんであっても、腹が立ったら怒る、それが怒れないことなんだったら、子どもにも怒るな、ということなのかなと。
    それが「子どもを個人として尊重する」ということにつながるのではないかと思います。

    もちろん、それぞれの民族が持っている文化背景や気性などもありますので、絶対に声を荒げちゃダメ、ということではなく、そこは「昨日はおこりすぎちゃってごめんね」という関係性があればいいと思いますね。
    大人だってそういうことありますよね、そんなに難しく考えなくてもいいと思います。

    子どもと1人の人間として向き合うから、謝ることもあるし、けんかすることもある。胸のうちをきちんと話せる対等な関係を作り上げていくことを、子どもが小さいうちから意識することが大切なのかもしれませんね

    おやこのくふう編集部 編集部

    しつけは親のエゴとしてタブー視されている

    中山:そもそも、スウェーデンでは「親が子どもをしつける」という考え方がないということですよね?

    田中:「しつけ(Discipline)」という言葉はあまり使いません。どちらかというと親のエゴとしてタブー視されている感じですね。大人だから常に正しい、それを子どもに押し付けたり強制させることはありません。前述の子ども観に大きく反するからです。

    それよりも、大人は子どもに対して「ガイドする」「枠組みを決める」などという表現を使ったりします。しつけではなく、子どもたちの成長度を見て自分の意思決定に責任を持てるかを考慮して、選択肢を示してこの中から選ぼうね、というように導いていきます。

    たとえば買い物中に子どもが「これを買ってほしい」と泣きわめいてしまったとします。その感情にふたをしても仕方ないので、年齢にもよりますが、まずは共感・受容してあげます。「ほしいもの買ってもらえなくていやだよね、わかるよ」そのうえで、できないことははっきりと伝えます。「でも、今日は買えないんだよ、ごめんね」と。

    子どもが感情的にわーっとなるのは仕方がない、それは周りが許容するべき、という考えでしょうか。もちろん物を投げたりするなどの危険な行為は止めますが。

    中山:日本の親は子育てに対して、「ちゃんと育てなくちゃ」という義務感が強すぎるのかもしれませんね。

    田中:子どもは育つ主体であります。愛情がたっぷりあれば子どもは育つんです。
    子どもと大人は違いはなく、1人の人間として尊重されるべき。そして、親もまた完全ではない1人の人間。親も子どもも一緒に育っていく主体なんですよね。

    そもそも、大人だってそんなにわかってるわけじゃないですよね。
    スウェーデンでは、大人も自分の失敗をよく話してくれるし、年下であっても自分の胸の内を話して対等な存在として扱ってくれるんです。

    私が高校生で最初にスウェーデンに留学してきたとき、大人が自分の意見をきちんと聞いて尊重してくれる姿勢に驚き、受け身だったことが主体になったときの感動が忘れられないんです。そういう人間に対する価値観が変わると、日本の子育ても気楽になる点があるのではないでしょうか。

    なるほど。なんとなく「子どもを個人として尊重する」という真の意味が理解できてきた気がします。もしかしたら「きちんと育てなきゃ」「こういう子にしつけなきゃ」「親だからちゃんとしなきゃ」という親の気負いから自由になることが、私たち親にとってまずは必要なことなのかもしれませんね

    おやこのくふう編集部 編集部

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    次回は、スウェーデンの子ども観のベースにある「子どもの権利条約」について詳しくお伺いします。

    イラスト/Kaoru Noguchi

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お話を伺った方

スウェーデン就学前学校Guldklimpar COO 田中 麻衣

福岡県生まれ。大阪大学外国語学部卒。高校と大学で1年ずつのスウェーデン留学を経て2012年に移住。スウェーデン学童保育の再建をきっかけに、スウェーデンの学校運営に携わるようになる。ストックホルム大学にて校長資格取得。教頭、校長職を経て、現在は幼稚園運営及び特別支援教育専門のコンサル企業に所属し、各地現場の環境・内容・方法等のマネジメント及び人材育成に携わっている。

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