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のんたんせんせいの自然エッセイ

園舎のない幼稚園があることを知っていますか?野外幼児教育で育つ生き抜くための「目に見えない力」

園舎のない幼稚園があることを知っていますか?野外幼児教育で育つ生き抜くための「目に見えない力」
兵庫県西宮市で野外幼児教育を実践する「森のようちえん さんぽみち」。園長の野澤俊索さんに、園児たちが毎日どのように過ごし、どんな力を育てているのかをお伺いします。
目次

非認知能力と子どもの自然体験をテーマに、野澤俊索さんに自然と子どもたちの関わりの大切さを綴っていただいているこの連載。
今回は野澤さんが園長を務める兵庫県西宮市の「森のようちえん さんぽみち」の野外幼児教育について詳しく伺います。

毎日、森に登園する子どもたち。自然の中で過ごす時間を通じて、子どもたちはどんな成長を遂げるのでしょうか。

「濡れたっていいじゃない。お顔だって、体だって、いつもいつも、濡れてきたじゃない!」

年長組のみんながお弁当の場所を決めているときです。見つけた木の椅子には朝の雨がたまっていて、「ここじゃお尻がぬれちゃう」と言う子に対して、ある子がこう言いました。

そばで見守る保育者は、子どもたちが入園したばかりの3歳の頃、雨に打たれて泣いていたことを思い出していました。思い通りにいかない時にはいつもかんしゃくを起こしていたあの子が、今その思い出をしっかりと胸に抱いて前を向いていることに、とても感慨深い気持ちでいました。

しばらくすると椅子にシートを敷くことに決まり、みんなにっこり微笑んでお弁当が始まりました。

”森のようちえん”は、子どもの主体性を育む北欧で生まれた幼児教育

兵庫県西宮市の甲山(かぶとやま)に、「森のようちえんさんぽみち」という日常通園型の"森のようちえん"があります。
子どもたちは雨の日も風の日も、暑い日も寒い日も、毎日森に出かけます。さんぽみちには園舎がありません。その代わり、森そのものを"園舎"として子どもたちは森に通います。

“森のようちえん”とは、1950年代半ばに北欧に発祥した幼児教育です。
デンマークで一人のお母さんが自分の子どもとお隣の子どもを森に連れて行って保育したのが始まりとされています。その教育の特徴は、子どもたちの主体性を育むこと。そのために、子どもたち自身の心の動きに合わせた保育が行われています。

森の中で環境への適応力、たくましさ・おおらかさを身につけていく

朝、森に登園してきた子どもたちは、お母さんに「いってきます!」をしてひと遊び。そしてみんなが落ち着いた頃に、"おはようの会"が始まります。

雨の日はカッパを着て、寒い冬の日はダウンジャケットに手袋をはめて、毎朝同じ光景が繰り返されます。
どんな環境でも自分の側を変化させて、自分で対応していくことで、環境に対する適応力を身につけます
そして少々のことは気にしない"たくましさ"や"おおらかさ"を獲得します

自ら遊びを考え、自然と密着した暮らし文化を経験する

午前中は森へおさんぽに出かけます。
森にいっぱいあるタカラモノを見つけたり、崖や繁みの"冒険の道"を歩いたり。ときにはヘビが通せんぼしていたり、大きな木が倒れていたりすることもあります。
おさんぽの最中に出会うたくさんの出来事は、子どもたちの心を動かします。

行きついた先でお弁当の後は森遊び。
木に登ったり、川に入ったり、繁みでおうちごっこをしたり、木の実をつぶして色あそびをしたり。
子どもたちが自分自身で遊びをクリエイトしていくことで、創造性や想像力が育まれ、遊びのやり取りを通じて社会性が育まれます

また、自然と文化の接点を経験します。
野外調理では、薪でごはんを焚いたり、お野菜を切ってお味噌汁を作ったりします。畑仕事をしてお野菜を育てて食べたり、季節の行事に合わせた創作をしたりします。
干し柿を作ったり、お味噌づくりをしたり、自然と密着した暮らし文化を経験することは日本的な森のようちえんの特徴といえます。

思い通りにならない自然体験から自立心と気持ちのコントロールを学ぶ

遊びや活動だけではなく、もう一つの大事な視点が"生活"です。 自然の中で"自分のことを自分でする"ということは、子どもたちに大きな自立心をもたらします。 また、なかなか思い通りにならない自然の中での経験から、人と関わるときにも自分の気持ちをうまくコントロールすることができるようになっていきます

子どもたちと共にいる保育者は、子どもの気持ちに寄り添いながら、対話的・支援的に関わります。
子どもたちが自然の風景と重なるとき、子どもたちはまるで小鳥がそこにいるように自然に森に存在します。

やりたいことをやりたいようにやってみること。

子どもたちが主体的に動ける環境を作ることが保育者の努めです。
子どもたちの気持ちが満たされているとき、その目は生き生きとした生命の力にあふれています。保育者は"目に見えない保育"を通じて、子どもたちの"目に見えない力(非認知能力)"が育つ手助けをしているのです




子どもたちが森に"自然に存在し"、そこで過ごす時間を通じて、大きく成長する。 そのかけがえのない贅沢な時間は、きっと生涯を通してのタカラモノになるに違いありません。

森のようちえんさんぽみち
https://morinoyouchien-sanpomichi.jimdofree.com/
NPO法人森のようちえん全国ネットワーク連盟
http://morinoyouchien.org

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執筆者

森のようちえんさんぽみち園長 野澤 俊索

NPO法人ネイチャーマジック理事長、兵庫県自然保育連盟 理事長、森のようちえん全国ネットワーク連盟 理事
神戸大学理学部地球惑星科学科 卒業。
兵庫県西宮市甲山にて、建物を持たず森を園舎とする日常通園型の自然保育「森のようちえんさんぽみち」を運営して10年。今では2歳から6歳までの園児25名と一緒に、雨の日も風の日も毎日森へ出かけていく日々。愛称は"のんたん"。森のようちえん全国連盟では指導者の育成を担当している。
プライベートでは2歳の娘の子育ても楽しみにしている。

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